故人の借金はかぶりたくない…相続放棄
■相続放棄は3か月以内。遺産を使うのはNG。
遺産はプラスのものだけとは限りません。
借金などの債務、つまりマイナスの遺産も相続の対象となります。
したがってマイナスがプラスの遺産を超える(債務超過)の状態で、その借金を引き継ぎたくない場合は、相続放棄をして相続人から離脱することができます。
残念ながらプラスの財産だけ引き継ぎ、マイナスは引き継がないということはできません。
またこの手続は、相続開始を知ってから3か月以内(熟慮期間といいます。事情により伸長は可。「亡くなってから」ではありません)に家庭裁判所に書類で申述することにより認められます。
さらに一部の例外※1を除き、遺産の一部又は全部を使ってしまった相続人は、相続放棄ができません(法定単純承認といいます)。
なおプラスとマイナス、どちらの遺産が多いか不明な場合、相続の限定承認といって、プラスの遺産の範囲内でのみ責任を負う制度※2もありますが、相続人全員で行わなければならず、手続も複雑で弁護士に依頼しないと現実的に難しいなど、使い勝手が悪くほとんど利用されていません。
※1 葬儀費用として一般的な金額を遺産から払った場合(大阪高裁昭和54年3月22日決定)など
※2 あくまでもマイナスを「引き継がない」わけではないことに注意
■3か月を過ぎてたら一切相続放棄はできない?
では相続開始を知ってから3か月を過ぎてしまった場合、どんな事情があろうと一切相続放棄はできないのでしょうか?
必ずしもそうとは限りません。
例えば熟慮期間経過後に、初めて個人に債務があることを知り、それにやむを得ない事情があるなら、認められるケースもあります(最判昭和59年4月27日)。
このような場合、その旨の事情を上申書等で説明することになります。
■誤用される法律用語「相続放棄」
なお一般の方がしばしば「(プラスの)遺産があるけどもらわない」という意味で「相続放棄」という言葉を使いますが、これは法律的には誤りです(個人的には誤用されている法律用語第1位だと思っています)。
前述のように、相続放棄とは家庭裁判所に申述して相続人から離脱することを指すのであって、通常は故人の遺産が債務超過になっている場合に行うものです。
プラスの遺産しかなくて、自分がもらわないだけであれば、遺産分割で十分なのです。
例えば故人の妻だけに遺産を集約させる目的で、一人っ子が相続放棄をしてしまうと、相続人が妻と故人の兄弟姉妹(第3順位相続人)になってしまう(=血のつながらない者同士で話し合わなければならなくなる)というとんでもないことも起こりえますので、十分ご注意ください。
■費用の目安
・3か月以内の場合
報酬(税抜) 実費
相続放棄申述書類作成 1万5000円~ 数千円(切手・印紙)
・3か月以降の場合
報酬(税抜) 実費
相続放棄申述書類作成 2万5000円~ 数千円(切手・印紙)
(上申書作成等込)
※同一被相続人につき、放棄者2人目以降の申述書作成を同時に受任する場合
5000円加算