自己破産予定者がやってはいけないことトップ3
■急増?自己破産
コロナの影響でしょうか?
債務整理、特に自己破産の相談が増えてきているように思います。
先日も、裁判所に破産申立書類を提出してきたのですが、その時、たまたま知り合いの先輩司法書士とばったり会いまして、ちょっとした雑談をしたのですが、その時に、「最近破産の案件増えていますよね」「先輩の事務所もですか」などという話も出ました。
もしかしたら、このページをご覧の方の中にも、現在借金を計画通り返せない、自己破産も視野に考えている、という方がいらっしゃるかもしれません。
破産というのはごく簡単に言うと、今ある借金を全部チャラにしてもらう手続です。
このチャラにしてもらうことを、責任を免れると書いて「免責」といいます。
決して違法なことではありません。
ちゃんと国が認めた手続です。ご安心ください。
ただし、破産を考えているのであれば、これはやってはいけませんよ、ということのが実は法律上色々とあるんです。
難しい言葉で言うと、免責不許可事由といいます。
これに該当する行為をした人は、免責を許可しないことがありますよ、ということです。
そこでこのページでは、私が債務整理の現場にいる司法書士として、よく見かける「やってはいけないこと」を解説します。
自己破産を考えている方はぜひご覧ください。
■第3位 車や不動産の名義変更
自己破産を考えている方がやってはいけないことトップ3・第3位は、
「車や不動産の名義変更」です。
先ほど私は、破産というのは借金をチャラにする手続だと説明しました。
ですが、1つ補足させてください。
それはチャラにする前の段階で、「車や不動産のように一定以上の価値ある財産がある場合は、換価して債権者に分配する」という手続があるのが原則となります。
財産がある場合ですよ。なければ何も換価されずに免責に進みます。このことを同時廃止と言います。
(実務的には破産申立の7割程度が同時廃止となります)
ですがある程度大きながある場合には換価される可能性があります。
もちろん財産があるからといって全てが換価の対象となるわけではありません。
車に関しては年式が古いもので、査定額が低いようなものであれば、換価されないこともあります。
ただし不動産はほぼ間違いなく換価の対象になると思った方がいいでしょうね。
破産の相談に来られた方で、たまに見かけるのが、車や不動産を換価されたくない、取られたくない、じゃあ私の名義でなければ取られないんでしょ?
ということで、返済が相当苦しかったであろう時期や、相談の直前に親族や友達に名義変更してしまっているケース、というのがあるんです。
これはアウトです(破産法252Ⅰ①)。
いわゆる財産隠しや財産の不利益処分に当たり、債権者を害する行為と考えられるからです。
自分の名義でなければ取られないなんてそんな甘いものじゃないんですよ。
ただこれについては、そういうことをやってしまった依頼者が一方的にけしからん、というつもりもないんです。
というのは、過去にそれをやらかしてしまっている依頼者が何人かいらっしゃったんですが、経緯をよく聞くと、どうも誰かに「悪知恵をつけられやってしまった」というケースが大半なんです。
例えば友達から紹介された「法律に詳しい人」(もちろん弁護士や司法書士ではない人)とか、不動産業者に言われてやっていた人もいました。
どうも聞いていると本人はそれが悪いことだという認識もなく、アドバイスしてくれた人の言われるがままにやってしまったという印象です。
はっきり言います。
破産に関しては特にそうですが、弁護士や司法書士が言っていること以外、信用しないでください。
ネットに書いていることや、コンサルタントを名乗る人の言ってることを鵜呑みにしている方をよく見かけるんですが、かなり確率でデタラメな情報が混じっています。
そうした無資格者の口車に乗ってしまうと、のちのち手続の難易度が上がってしまうケースが非常に多いんです。
なお補足としては、マイホームを残して債務整理をしたい場合、任意整理や個人再生という方法があります。
■第2位 これ以上お金を借りる
自己破産を考えている方がやってはいけないことトップ3・第3位は、
「これ以上お金を借りること」です。
これは単純です。
今の状態で、これ以上お金を借りても、約束通り返せないだろうな、と自分でもわかっている状態でさらにお金を借りる。
これ、詐欺なんですよ。
だってそうでしょ?
返せないとわかってるんですよ?
なのに「ちゃんと返します」と言って借りるんですよ。
これ騙してるじゃないですか?
貸した側からすると、ですよ。(破産法252Ⅰ⑤)
これも私の過去の依頼者の傾向からすると、特に気を付けていただきたいのは、親族や友達にお金を借りなければならなくなった時です。
というのは、個人からお金を借りる状況って、たいがいは消費者金融の借入枠がいっぱいになってもうこれ以上借りられなくなり、仕方なく親族や友達に泣きついて借りる、というパターンが多いんです。
その状態になったらもう返すのは無理と思った方がいいです。
これ以上、頑張るべきではありません。
しかも親族や友達などの個人からの借入は、法律的なものだけでなく、感情的なトラブルになりやすいです。
「あなたの人間性を信用して貸したのに、裏切られた!」
というものですね。信じたのに裏切られた。これは感情を刺激しやすいです。
その点、消費者金融はプロの金貸しですから、淡々としています。
当然、一定の確率で返済が滞ったり、破産申立される人が出ることを計算に入れて融資の審査や利率設定をしてますからね。
なので、破産を申し立てると、債権者から異議申立というのが制度としてあるのですが、消費者金融からはまず出されません。
ですが、個人だと感情的になって、半分嫌がらせ的に異議を出されるケースもたまにあります。
親族・友人からは借りてはいけない。
これは第1位でも大事になって参ります。
■第1位…の前に、クイズ
自己破産を考えている方がやってはいけないことトップ3・第1位は
・・・これは発表の前にクイズを出しましょう。
Q あなたは消費者金融A社に90万円、友達Bさんに10万円の借金があり、手元に返済に回せるお金が10万円しかありません。
(AB共に優先弁済権はないものとします)
誰に対していくら返済しますか?
ここで友達Bに10万円と答えたあなた、不正解です。
「何でだよ?!友達は大事なんだからいいだろう?ちょうど返せる額と借金も同じだし」
ダメなんです。
なぜなら免責不許可事由である、偏頗弁済(へんぱべんさい)に当たるからです。
ということで第1位は、偏頗弁済です。
いきなり聞き慣れない言葉を言われてピンと来ないと思いますが、ちゃんと解説しますので、ご安心ください。
まず先ほどのクイズの答えを言いましょう。
A社に9万円、Bさんに1万円返すのが正解です。
なぜか? 債権者平等原則というのがあるからです。
「え?債権者平等?ならABそれぞれ5万円が正しいんじゃないの?」
と思ったあなた。
ここでいう「平等」というのは、債権額に応じた平等です。
つまりA社に90万円、Bさんに10万円の借金があり、返済に回せるお金が10万円なのですから、A社に9万、Bさんに1万返すのが平等、と考えるわけです。
そしてこの債権者平等原則に反して、特定の債権者にえこひいきした返済をしてしまうこと、これが偏頗弁済なんです。
これも過去に受けた案件の中には、元交際相手から別れる時に返すように強く迫られて仕方なく返してしまったとか、友達関係を壊したくなくて、偏頗弁済をしてしまったケースがありました。
お気持ちはよくわかるんです。ですが、ダメなものはダメです。
■とにかく早く相談を
ということで「自己破産を考えている方がやってはいけないことトップ3」を見ていただきました。
色々厳しいことを言ってきましたが、誤解しないでください。
この中の1つでもやってしまったら、即免責ができない、というわけではありません。
というのは、最終的には免責を許可するかどうかは、裁判官の裁量とされているからです(破産法252条2項)。
もっと言ってしまうと、私の経験上、だいたい破産される皆さん、免責不許可事由にあたることを何かしらやらかしてます。
これはある程度しようがないです。
皆さん法律の専門家ではないですから、破産法なんて知らない。
またお金のことで悩んでいる時の人間の判断力は、徹夜明けの8割程度にまで下がっているというデータもあるそうです。
そんな知識も判断力もない状態でやってしまったことを責めても始まりません。
なのでよっぽどのことがない限り、自己破産すれば免責は許可されると思ってください。
もちろん程度や頻度によっては、裁判所が破産管財人を選んで調査する手続を踏むことがあります。
(破産管財人=裁判所に選ばれた弁護士で、債権者の立場に立って破産者の財産・債務形成の過程等を調査する人)
この場合、時間もお金※も余計にかかりますが、それでも最終的には免責になることがほとんどです。
※同時廃止だと3カ月程度・予納金1万2000円程度で終わる手続が、破産管財人が就いた場合、6カ月程度・予納気20万円に必要(札幌地裁の場合)になる。
とにかく借金のことで悩んでいる、返済が苦しいと感じたら、なるべく早く弁護士・司法書士のところに駆け込んでください。
早ければ早いほどいいんです。
そして1点お約束をしてください。
それは相談した弁護士や司法書士には、全て正直に話すということです。
稀になんですが、色々な事実を隠したり、嘘をついて相談する方がいます。
後ろめたい気持ちはわかります。
が、なにぶんこうしたことは、信頼関係に基づいて受けるものです。
正直にお話しいただけない方は、こちらも心苦しいですが、依頼を断ったり、依頼途中であっても辞任といって、こちらから業務を終了させることがあります。